ジェンダー論

なぜ陸上競技で女性のユニフォームはハイレグなのか

なぜ陸上競技で女性のユニフォームはハイレグなのか

(English Article link)


(20221220追記:再読すると、我ながら気持ち悪さを感じる。どこか認知の歪みが表出しているような。)

レーシングショーツ、レーシングブルマ、ハイレグ、ユニフォームについて。

youtubeで以下の動画を見た。

陸上 女子七種競技 走幅跳 T&F Women’s Heptathlon Long Jump YouTube https://youtu.be/jMnWJAUNPd8

https://www.youtube.com/@japaneseathletevideos4044_モザイク処理は本記事執筆者による。

 当該動画や当該動画をアップロードしているチャンネルでは、女子陸上選手の動画が挙げられているが、カメラアングルからは性的な意図を感じた。また、そのようなカメラアングルを抜きにしても、その動画を見ているときに、女性競技者に対して性的魅力を感じている自分が在った(「自分自身性的視点を生起されたような気がした。」20260530更新)(ここでは、敢えてこう表現したが、このように内心を表明することの「悪」については後述する)。

 昨今、女性競技者に対する性的な目線については問題視されているが、この動画を見る限り、そのユニフォームは、「徒らに性欲を興奮又は刺戟せしめ」るような機能を有するように思える(「有しているともいえてしまいそうに思える」20240124_11:24 changed)。

では、なぜ女性競技者のユニフォームは、斯様な形になっているのか

先ず“セパレート型”ユニフォームについては、パフォーマンス向上が目的であると説明されているものが多かった(女子陸上選手はなぜ“セパレート型”ユニフォームを着る? 努力を踏みにじる「性的画像撮影」の卑劣さ – 陸上 – Number Web – ナンバーhttps://number.bunshun.jp/articles/-/846814)

しかし、何故ハイレグである必要があるのかについての説明は管見の限り見当たらなかった(yahoo知恵袋では股関節の可動性について言及するものもあったが)。(https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q11232529681)

ここで、ユニフォームがハイレグであることが、パフォーマンスの向上のためであると仮定すると、何故男性競技者のユニフォームがハイレグでないのかという疑問も浮かぶ。(女性のようなハイレグを男性が着用すると、男性器の収まりがつきにくく、機能性が如実に劣るようになるも考えられるので、男性がハイレグにならないことを疑問視するのは不当かもしれない。)

日本陸上競技連盟競技規則では、TR5の5.1において、「競技者は清潔で、不快に思われないようにデザインされ仕立てられた服装を着用しなければならない。その布地は濡れても透き通らないものでなければならない。また、審判員の判定を妨げるような服装を着用してはならない。」と規定されているが、https://www.jaaf.or.jp/pdf/about/rule/2022/chap2_p265-275.pdf、男性がハイレグを履くと「不快に思われる」といえるか否か。確かに、ユニフォームも服装に対する一般的な社会通念の影響下にあるであろうから、ジェンダーバイアスの支配下にあり、女性競技者には「女性的」なユニフォームが着せられ、その「女性的」という観念の中に、「ハイレグ」という要素があるのかもしれない

また、「もっと端的に言えば、男性視聴者にアピールすることで競技への関心を高め、その結果、スポンサーやテレビの放映権料を獲得したいといった狙いが透けて見える。歴史的にみれば、スポーツのユニフォームはこうした商業的な背景を反映しているケースが少なくない」と指摘するものもある。(https://president.jp/articles/-/48470)
男性的な性的欲望の動機が、「ハイレグ」の採用過程に混入している可能性はどの程度あるのであろうか。

私が思うに、「ハイレグ女子を見たい」という男性的な性的欲望が混入している可能性よりも、「女性がハイレグを履いているのは普通だが、男性がハイレグを履くのはおかしい」というようなジェンダーバイアス的な社会通念が影響している可能性の方が高いのではないか。たとえば、男性がハイレグを履くのが一般的な並行世界においては、男性陸上競技者のユニフォームもハイレグになっていた可能性があるのではないか。
そう考えると、男性的な性的欲望によってハイレグが採用されているわけでないのだから問題ないともいえそうである。しかしここで、そもそも「ハイレグ」そのものが男性的な性的欲望の産物ではないかという問いも生じる。どうだろうか。また、「女性的美しさ(性的魅力を含む)」を強調するためにハイレグが流行った可能性もありそうだ。丸みを帯びた腰を強調するわけである。ここでは、男性的な目線と女性的な目線が混在している。
もし仮に、「女性的美しさ(性的魅力を含む)」を強調するためのハイレグ、が(ジェンダーバイアス的社会通念の影響によって)競技用ユニフォームに持ち込まれたとするのであれば、そこに男性が「女性的美しさ(性的魅力を含む)」を見出すのは当然のことではないだろうか。そして、翻ってハイレグが”「女性的美しさ(性的魅力を含む)」を強調するため”という目的を持つものではなかったとしても、機能としてはハイレグは”「女性的美しさ(性的魅力を含む)」を強調する”機能を持っているように思うので、そこに男性が「女性的美しさ(性的魅力を含む)」を見出すのは当然のことではないだろうか。

では、そのような”「女性的美しさ(性的魅力を含む)」を強調する機能を持っているハイレグ”を着衣する女性競技者を男性が性的な目線で見るのは「悪」なのか。まず、上記のような機能をハイレグが有している以上(20260825_1238_作業仮説)、”男性が性欲を惹起する”のは”しょうがない”ことではあろう(20260825_1239追記_性的魅力を感じる、あるいは性的反応が自発的に生起することそれ自体は、少なくとも完全に任意の意志的選択ではない)。これは、町ゆく露出度の高い服を着た女性を男性が目撃したときに、”男性が性欲を惹起する”のは”しょうがない”ということとパラレルに考えられると思う。そこでは女性の意図は無関係である。

もっとも、そのような性欲の惹起を表明することはしてはいけないように思う。何故なら、性的魅力を誇示するつもりなく競技に真摯に向き合う女性競技者の感情を害するからである。(20250929追記_そして、同じように、町ゆく露出度の高い服を着た女性を男性が目撃したときに、”男性1が性欲を惹起する”のは”しょうがない”かもしれないが、その性欲の惹起の表明は反倫理性を有しえるし、あるいは相手の心情を害するのである。衣服は一つの自己表現であり、それが異性へのアピールである場合は一場面にすぎない。自分の好きなブランドの服を着て街に出たその道で、陰茎を顔の中心に付けているような面々に熱視線を受けるのはなんとも気持ちの悪いものであろう。無論、その視線のシャワーが癖になるような人も居るだろうが。)

そうなると、男性は、内心では性欲を惹起されながら、それを表明することは許されない(性欲が惹起されていないと振る舞わなければいけない)という状況になる。この状況をどう評価すれば良いのであろうか。この点については、さらなる検討が必要であろう。(20250929追記_別にそれは大したことでもないように思える。人間が現代社会で本能を抑えて我慢していることなどたくさんあるだろう。尤も、色々な人間がいるのであって、自制のきかない人間もいるのであって、自制のきかない人間に罪を問うのも、一つの思想にすぎない。(20260825_1246追記_ここでいう「一つの思想」とは、責任帰属そのものを否定する趣旨ではない。社会や法は一般に、人間には一定程度自己の欲求や行為を制御する能力があることを前提として、その行為について責任を帰属させている。しかし、人間の自制能力には個人差があり、また、どの程度の自己制御可能性があればその人に道徳的・法的責任を帰属させてよいのかは、自明な自然法則ではない。そこには、人間の自由意志や責任をどのように理解するかという規範的・哲学的問題が含まれている。))

まとめ

さて、女性競技者のユニフォームについて、特にハイレグについて疑問が浮かんだので、覚書程度に記した。なにも解決に至っていないが、疑問点は多少明らかになったようにも思う。切りは悪いがとりあえずはここで筆を置くことにする。









(20250109_16時頃追記) 改めて調べてみると、「ハイレグ」のwikipediaの記事にも参考になりそうな記述が多い(https://w.wiki/4Xnr)。


<20250519_22時頃追記<村上茉愛の文春オンラインの記事<
村上茉愛の文春オンラインの記事に以下のようなやりとりがあった。((4ページ目)性的なコメントに「自分がすり減るような感覚が…」体操・村上茉愛(28)がアスリートへのハラスメント問題に思うこと | 文春オンライン https://bunshun.jp/articles/-/78644?page=4 )

――近年では体操選手のレオタード着用が選手にとってプレッシャーになるのではないかという指摘もあります。

村上 選手同士で練習している時は全く気にならないんですけど、大勢の目にさらされると意識すると、やっぱり恥ずかしさはあります。ネットニュースなどで性的な感じで写真や記事が取り上げられたり、SNSでそういったコメントが直接届いたりすると、自分がすり減るような感覚がするんです。若い選手にとっての精神的な負担は計り知れません。

――東京五輪でドイツチームがレオタードではなく、足首まで覆われた「ユニタード」を着て試合に出場したのも大きな問題提起だったように思います。

村上 選択肢が増えるのは喜ばしいですよね。こうした動きによって、性的な記事や盗撮行為などが無くなっていけばと思います。ただ、レオタードスタイルの方が手足が長く見えて演技が映える、体型が美しく見えるというケースもありますから、その辺りはバランスをみて、慎重に考えていけたらと。

 対策として、透けない生地のレオタード着用の推奨、大会での写真撮影の規制などには体操協会全体で取り組んでいきます。

 あと最近ではやっぱりSNSのコメントですよね。自分の経験から言えることは、見ない、気にしないことが一番なんですが、そう簡単にはいかないですし。どうしても気になってしまうようであれば、自分の気持ちを話せる友人、コーチなど、相談できる身近な相手を作っておくのがいいんじゃないかと思います。もちろん、私もその一人でありたいですね。((4ページ目)性的なコメントに「自分がすり減るような感覚が…」体操・村上茉愛(28)がアスリートへのハラスメント問題に思うこと | 文春オンライン https://bunshun.jp/articles/-/78644?page=4 )

>20250519_22時頃追記終わり>>


2026年追記――女子陸上競技のレーシングブリーフは、なぜ男子より多いのか

(2026年8月25日追記)

この記事を書いた2022年時点では、女子陸上競技で男子よりも露出度の高い、いわゆるハイレグ型の下衣が多く用いられている理由について、私は十分な資料を見つけることができなかった。そのため、当時の記事では、競技上の機能性、競技服の歴史、ジェンダー規範、性的な視線など、複数の可能性を推測的に挙げるにとどまっていた。

その後、競技団体の公式資料、女子陸上選手を対象とした研究、スポーツ衣服のレビュー研究、女性アスリートの身体経験を扱った研究、さらに1960年代末以降の陸上用品広告・カタログ、2024年パリ五輪前後のユニフォーム論争、2025年東京世界陸上の撮影規則、2026年の放送ガイドラインなどを確認することができた。これらを総合すると、2022年当時よりはかなり具体的に、「何が原因として考えにくいか」「何が男女差の説明として有力か」を整理できるようになった。

なお、以下では便宜上、女子陸上でしばしば用いられる脚ぐりの大きい下衣を「レーシングブリーフ」「ブリーフ型」と呼ぶ。「ハイレグ」という語は一般語としては分かりやすいが、競技服の正式な分類名ではなく、形状にも幅があるためである。また、1960~70年代の資料に現れるtrack briefscompetition briefsbikini briefsが、現在の女子レーシングブリーフと全く同じ裁断・被覆面積であったと当然に仮定することもしない。以下で歴史資料から直接確認できるのは、まず商品カテゴリーと言説の存在であり、形状の連続性や実際の着用率については別途検証を要する。

1 まず確認できること――女子選手はブリーフ型を着なければならないわけではない

最初に重要なのは、少なくとも現在の陸上競技規則が、女子選手にレーシングブリーフやセパレート型を義務づけているわけではないという点である。

日本陸上競技連盟は2023年4月26日、「ユニフォームのルールの解釈について」と題する公式説明を公表した。そこでは、全国的な競技会のリレーにおいても、デザイン・配色が同一であれば、選手によってユニフォームの「タイプ」が異なっていてもルール上問題ないとされている。例として、ランニングシャツとランニングパンツ、レーシングシャツとレーシングタイツ、セパレートタイプ、ワンピースタイプなどが挙げられている。そして選手には「ご自身がパフォーマンスしやすいユニフォームを選択してください」と案内し、指導者にも、選手がユニフォームタイプをそれぞれ選択できる環境づくりを求めている〔1〕。

2026年版の競技規則TR5.1も、服装について、清潔であること、不快に思われないようにデザイン・着用されること、濡れても透けないこと、審判員の判定を妨げないことなどを定めるが、「女子はブリーフ型でなければならない」という規定ではない〔2〕。

したがって、「女子陸上選手にブリーフ型が多いのは、競技規則がそう要求しているからである」という説明は、少なくとも現在の日本陸上競技については成り立たない。

これは、この記事の問いを考える上で大きな意味を持つ。制度的に強制されているのでなければ、なぜ現実には男女でこれほど服装の傾向が違って見えるのか、という問題が改めて残るからである。

2 「競技性能のため」という説明は、どこまで確かか

次に考えられるのは機能性である。布地が少なく、脚の付け根を覆わない方が、脚を大きく動かしやすく、暑さや擦れも少ないのではないか、という説明である。

実際、この説明には一定の根拠がある。

2026年7月、Runner’s Worldは、女子陸上選手がなぜレーシングブリーフを選ぶのかについて複数の競技者に取材した。800メートル選手Emily Richardsは、スパンデックスのショーツよりブリーフ型を好む理由として、股関節周囲の制約が少なく、膝を高く上げてpowerを発揮する必要がある競技で動きやすいという趣旨を述べている。また別の選手も、ショーツが脚上げを妨げる感覚、ずれや擦れ、暑さなどを挙げている〔3〕。

このような証言は軽視すべきではない。少なくとも、女子選手がブリーフ型を着ている場合、それをすべて「男性に見せるため」「メーカーに強制されたため」などと説明することはできない。競技者本人が、可動性、温熱感、擦れ、着用感などを理由として積極的に選んでいる場合が現実にある。

しかも、女子陸上競技の服装に機能性を求める動きは最近始まったものでもない。スポーツ史研究者Amanda Schweinbenzによれば、女子陸上がオリンピック種目として正式に登場した1928年アムステルダム大会で、カナダの女子選手6名は、自らシャツの袖を切り、他国選手より短いランニングショーツを選んだ。理由は、腕と脚をより自由に動かすためだったという〔4〕。つまり、女子競技服の短小化には、少なくとも初期から競技者側の「動きやすさ」という動機が存在した。

一方で、ここから直ちに「女子はブリーフ型の方が速い」「女子には男子より露出の大きい服が科学的に必要である」と結論することはできない。

Di Domenico、Hoffmann、Collinsによる2022年のレビューは、暑熱環境におけるスポーツ衣服の熱調節、快適性、performanceに関する32研究を検討しているが、研究方法が多様で、衣服の違いによる効果について結果は一貫していない。また、対象研究の72%は男性のみを対象としており、女性のみが16%、男女双方を含むものが12%であった。さらに男女双方を含む4研究でも、男女差を直接比較していなかった。著者ら自身、スポーツ衣服の影響を男女間で比較する研究を今後の課題として挙げている〔5〕。

したがって現段階では、次の二つは区別すべきである。

第一に、「個々の女子選手が、可動域、擦れ、熱感、快適性等の理由でブリーフ型を好むことがある」という命題。これは選手証言やスポーツ衣服研究の一般的知見と整合する。

第二に、「女子には男子よりもブリーフ型が競技科学上必要であり、そのため男女の服装差が生まれた」という命題。こちらについては、私が確認できた範囲では十分な実証的根拠がない。

言い換えれば、機能性は「なぜ競技服が軽量化し、身体に密着し、動きを妨げない方向へ進んだか」をかなり説明できる。しかし、「なぜその機能性追求の結果が、女子ではbrief、高い脚ぐり、crop topへ、男子ではshorts、half tights、unitardへと異なる形で定着したのか」は、機能性だけでは説明しきれない。

3 2024年のNikeユニフォーム論争が示したこと

この問題を考える上で非常に興味深い出来事が、2024年パリ五輪前に起きた。

NikeがTeam USAの陸上競技用ユニフォームを発表した際、女子用として示された非常にhigh-cutなワンピース型ユニフォームに対して、複数の女子選手から批判が起きた。Reutersによれば、米国の障害走選手Colleen Quigleyらは、露出が必要以上に大きい、競技性能を第一にしたデザインとは思えない、という趣旨の批判を行った〔6〕。

しかし、この事件を「女子選手は露出型ユニフォームを嫌がっているのに、Nikeが強制した事件」と単純化することも正確ではない。Nikeは選手に複数のタイプを用意しており、unitardについてもbrief型だけでなくshort型を提供し、個別フィッティングを行うと説明していた。また、ブリーフ型を好む女子選手もいる。

2026年のRunner’s Worldの取材でも、briefを機能的に好む一方、カメラや観客を意識すると露出が気になってshortsに替えることがあると語る選手や、スポンサー・チームから通常いくつかの型は提示されるものの、自分で全てのデザインを自由に決められるわけではないとする証言が紹介されている〔3〕。

ここから読み取れるのは、女子選手という集団に単一の選好があるわけではないということである。同じレーシングブリーフでも、ある選手にとっては最も動きやすい服であり、別の選手にとっては心理的負担を伴う服であり得る。

同時に重要なのは、「選手本人が選んでいる」という事実だけでは、男女差の起源を説明できないことである。選択は常に、メーカー、スポンサー、学校、チーム、競技文化によってあらかじめ用意された選択肢の中で行われる。その選択肢そのものがなぜ男女で違うのか、という問いが残る。

4 競技服の歴史を追うと何が見えるか

この点について、1960年代末から2000年代初頭までの同時代広告・カタログを調べると、かなり興味深いことが分かる。

4-1 男女のカテゴリー分化は1980年代より前から存在した

英国『Athletics Weekly』1969年7月19日号・26日号のUmbro広告では、一般のSHORTSと別項目として、GIRLS' & LADIES' TRACK BRIEFSが掲載されている。一般のshortsもBrief cut, action-free stylingとされ、当時の男子用競技ショーツ自体が非常に短かったことには注意が必要である。しかし、同じメーカーが通常のshortsと女性専用track briefsを別の商品カテゴリーとして販売していたことは確認できる〔7〕。

1974年9–10月のNorCal Running Reviewに掲載されたランニング用品カタログでは、女性用下衣としてWomen's Nylon Track Shortsの項にPopular standard length competition briefsthe new bikiniが掲げられ、Competition BriefsBikini Briefsが販売されている。同じページの女性用シングレットについては、feminine appearanceを保ちながらfreedom and comfortを可能にするよう仕立てた、と説明されている。一方、briefsについての直接の説明はLightweight and modestであり、快適な腰・脚ぐりのelasticを備えるというものである〔8〕。

したがって、この資料を「briefというカットそのものが女性らしく見せるために採用された直接証拠」と読むことはできない。そこまでの因果は書かれていない。

それでも、この同じ女性向け商品ページにおいて、女性らしい外見、自由な動き、快適性、軽量性、modestyといった価値が並行して商品化されていることは重要である。少なくとも、当時の女性用陸上衣料がperformanceだけから独立に設計・販売されていたわけではなく、女性としてどう見えるかという外見上の価値も市場言説の一部だったことは直接確認できる。

さらに1978~79年のViga広告では、同じ商品群の中にViga King Men's ShortsViga Track Queen Ladies' Competition Briefsが並ぶ〔9〕。少なくとも1970年代末の英国市場では、「男子用shorts/女子用competition briefs」という性別化された商品語彙が既に存在していた。

ただし、これらの広告が示すのは「その商品が市場で用意され、どのような語彙で売られていたか」である。何割の競技者が実際に着用したか、その商品区分をメーカーがどのような内部的判断で採用したかまでは、広告だけからは分からない。

4-2 1980年代のLycra革命は、女子だけではなく男子も身体密着化させた

1980年代にLycra/spandexがスポーツ衣服へ急速に広がったことは、競技服の歴史で大きな転換点だった。しかし、ここで重要なのは、伸縮素材が「女子だけを露出させた」わけではないことである。

1985年1月のLos Angeles Timesは、Lycra製running tightsを「Carl Lewis tights」とも呼ばれる新しいスポーツ衣料として紹介し、男女双方が着用していると報じている。同記事では、Hind-Wells創業者Greg HindがLycraをswimwearからtrackへ導入し、身体に密着して筋肉とともに動き、supportとwickingを与える衣服を作ったと説明する。またNike側も、1984年五輪の多数の選手に機能目的のtightsを提供したと述べている〔10〕。

この資料は新聞記事であり、メーカーの性能主張そのものを科学的に実証した研究ではない。しかし、1980年代半ばに男子を含む競技者がLycraの身体密着型衣服を採用し、その理由が同時代には機能性と結びつけて説明されていたことを示す同時代資料として有用である。

つまり1980年代の技術革新が直接生んだ主要な変化は、女子だけのgreater exposureではなく、男女双方のtightness、すなわち身体密着化であった。

ここから元記事の問いは、より精密になる。

問題は「なぜ女子だけ身体に密着する服を着るのか」ではない。男子も身体密着型へ進んだ。むしろ問うべきなのは、同じ「身体に密着し、動きを妨げない」という技術的方向性の中で、なぜ女子では腿を覆わず脚ぐりを大きく取るbrief/leotard型、男子では腿を覆うtights/unitard型が有力な選択肢として定着したのか、である。

4-3 1990年代には女子のcrop top+briefsが目立つようになり、同時に反発も起きた

1990年代半ばには、女子のhigh-cut briefsとcropped topの組合せが少なくとも米国の競技・メディア空間でかなり可視化されていたことが確認できる。

Washington Postが1996年アトランタ五輪の競技服を扱った記事では、spandexが五輪にもたらしたものをspeed, precision, comfort and sex appealと表現している。同記事はMarie-José Pérecのhigh-riding briefsとcropped topが注目を集めたことを伝える一方、1948年五輪金メダリストAlice Coachmanは、短い服には腕や脚の動きを妨げない利点があると評価し、男子もleotardを着ていることに言及している。Nike側もLycraやDri-Fitの機能を説明している〔11〕。

ここでも注意が必要である。この新聞記事は、spandexが実際にどの程度記録を改善したか、あるいはsex appealがデザイン決定の原因だったかを実証する研究ではない。むしろ、1996年の同時代言説において、競技服がperformance technologyであると同時に身体を視覚的に提示する衣服として認識されていたことを示す資料として読むべきである。

同じ時期、NCAAは女子陸上におけるbare-midriff topの広がりを明示的に問題視した。NCAA公式紙The NCAA Newsの1996年4月1日号は、女子の腹部を露出するトップを禁止する規則について、競技者番号の配置上の理由とともに、to stem a trend toward increasingly revealing uniforms、すなわち「ますます露出度を増すユニフォームの傾向を抑える」ことを理由として挙げている〔12〕。

これは、1990年代半ばまでに女子の露出型ユニフォームが、少なくとも米国大学陸上では規則制定者が「trend」と認識する程度に広がっていたことを示す。同時に、その変化が全員に当然のものとして受容されたわけではなく、「女子競技者にどの程度の露出が適切か」をめぐる規範的な争いが存在していたことも分かる。

4-4 2000年代初頭には「女子crop top+track briefs」が商品カテゴリーとして確認できる

『Athletics Weekly』2002年10月23日号のスポーツウェア広告には、LADIES CROP TOPLADIES TRACK BRIEFSMENS TRACK VESTUNISEX LYCRA SHORTSが別商品として掲載されている〔13〕。

これは、1960~70年代に確認できた女性用briefという商品語彙と、1990年代に広がったcrop topとが、2000年代初頭には同一市場で女子用競技衣料の選択肢として明示されていたことを示す。

ただし、同じ広告にはUNISEX LYCRA SHORTSもある。女性にbrief以外の選択肢が存在しなかったわけではない。また、一広告から「女子の多数派がcrop top+briefだった」と数量的に結論することもできない。ここで確認できるのは、市場が女子用crop top・track briefsを性別化された独立商品として供給していたという点である。

5 「競技者らしい服装」が個人の選択を再生産する

この点について、2023年4月8日のNew York Timesの記事“The Runners Changing Course on Uniform Expectations”は、現在の選手たちへの取材を通じて非常に示唆的な証言を報告している〔14〕。

同記事では、女子ランナーのユニフォームは高校から大学、プロへ進むにつれて小さく、身体密着的になる傾向がある一方、男子のユニフォームは比較的、ゆったりしたジャージーとshorts、またはsprinterのknee-length spandexという形を維持すると描写されている。競技団体の規則がこの男女差を要求しているわけではない。

とりわけ興味深いのは、元全米王者のLauren Fleshmanが女子のbuns、すなわちbriefsをa badge of honorと表現している点である。同記事は、この感覚が取材した十数名の大学・プロ選手にも共有されていたと報告する。Fleshman自身、快適さを優先してbriefsからshortsへ替える際、それをprofessionalではない選択のように感じたと語っている〔14〕。

これは、代表性のある標本調査ではなく、新聞による質的インタビューである。したがって、「女子陸上選手一般がbriefを競技者の証と考えている」と一般化することはできない。しかし、briefを本格的な競技者らしさと結びつける規範が、少なくとも複数の大学・プロ選手の経験として実在することを示す資料としては重要である。

このような規範が存在するなら、「本人がbriefを自由に選んでいる」という事実と、ジェンダー化された競技文化の影響は矛盾しない。

女子選手の周囲に、トップ選手がbriefを着る、チームがbriefを支給する、メーカーが女子競技用briefを商品として用意する、周囲の女子選手もbriefを着る、briefが「本格的な陸上選手になった証」のように理解される、という環境があれば、briefとshortsの機能差が本人にとってごく小さくても、briefが選ばれる蓋然性は高くなる可能性がある。

逆に男子選手の周囲に、男子競技者用のhigh-cut briefという商品・支給品・ロールモデルがほとんどなく、その服装が「普通の男子陸上選手の服」と認識されていなければ、たとえ個人的には脚ぐりの大きい服を快適だと感じる者がいても、同じ選択が生じにくい可能性がある。

この部分は現在の資料から直接測定された因果ではなく、歴史資料と選手証言から導く社会学的仮説である。しかし、観察される「女性選手はbriefを好む」「男性選手はshortsやtightsを好む」という現在の選好を、文化以前の純粋な個人差とみなすべきではない、という問題提起には十分な根拠があると思われる。

一度「女子陸上=brief」「男子陸上=shorts/tights」という標準が形成されれば、それはメーカーの商品展開、チームの支給、トップ選手への模倣、本人の競技者アイデンティティを通じて自己再生産し得る。この意味では、一種の経路依存的な現象として仮説化できる。

6 ジェンダー規範は、どの程度説明力を持つのか

ここまでの史料を踏まえると、元記事の男女差を説明する上では、調査前に考えていた以上にジェンダー要因の比重を大きく見る必要があるように思う。

Susan K. Cahnは、20世紀女性スポーツ史を通じて、女性の競技参加が「男性化」への不安と結びつけられ、女性アスリートの服装が男性との違い、女性らしい美、modesty、時にはsexual appealを表示する手段として意識的に設計・利用されてきたことを論じている。とくに『Coming on Strong』第9章では、athletic clothing自体がスポーツにおけるgender differenceを標示し、女性の服装がmannishnessへの批判を避けるために女性的美やmodestyを強調するよう設計されることがあったと論じる〔15〕。

これは女子陸上レーシングブリーフの直接的な起源研究ではない。しかし、「女性競技者を女性らしく見せる」という圧力が広い女性スポーツ史に実在した、という背景については、単なる推測ではなく歴史研究の裏付けがある。

2023年のNew York Times取材でCahnが、女子選手をより小さい競技服で装わせることには女性をfeminine and sexyに見せ、スポーツによる「男性化」への不安を和らげる作用があった可能性を指摘していることも、この研究史の延長上に位置づけられる〔14〕。ただし、この発言も陸上briefの特定メーカー・特定年代のデザイン決定を直接史料で復元したものではない。

さらに今回確認した1974年のカタログには、女性用シングレットについてfeminine appearanceを設計・販売上の価値として掲げる直接的な同時代資料が存在する〔8〕。前述のとおり、この文言はbrief自体の説明ではないため、「briefのカットは女性性を強調するために採用された」とまでは言えない。しかし少なくとも、女性用陸上衣料の市場でperformanceと女性的外見が同時に意識されていたことを示す。

加えて女性アスリート研究では、競技によって要求される強さ・筋力・身体性と、社会的に期待される女性性との間の緊張が長く指摘されてきた。Kraneらのいわゆるfemale-athlete paradox研究〔16〕に加え、Tremonteらは2026年、2001~2025年の質的・混合研究43本、計764名の女性アスリートの身体経験を統合し、競技する身体と外見を評価される身体との緊張が継続していることを示している〔17〕。

もちろん、これらは「女子陸上のレーシングブリーフは男性の性的欲望を満たすために発明された」と証明するものではない。そのような単線的な起源説を支持する資料は確認できない。

むしろ史料から見えるのは、機能性とジェンダーが異なる水準で重なってきたということである。1928年には女子選手自身が可動性を求めて服を短くしている。1970年代には女性用briefカテゴリーが市場化され、同時に女性用陸上衣料の広告に女性的外見への言及がある。1980年代には男女ともLycraによって身体密着化する。そして1990年代以降、女子brief+crop topと男子shorts/tightsという異なる標準が強く可視化される。

この歴史からすると、競技性能要因は「なぜ競技服が短く、軽く、密着する方向へ進んだか」を説明する一方、ジェンダー化された競技文化・市場は「なぜその機能性追求が男女で異なるシルエットとして標準化したか」を説明する上で、より中心的な意味を持つ可能性がある。

ただし、「ジェンダー要因の寄与が機能要因より何%大きい」といった比較はできない。現時点で言えるのは、男女のシルエット差そのものについて、純粋なperformance仮説だけでは説明が不足し、ジェンダー化された市場・競技文化を加えた説明の方が、確認できた歴史資料を広く整合的に説明できるという程度である。

7 男性器という身体的性差は、男女差を説明するか

もっとも、男女差をすべて社会的ジェンダーだけで説明することにも慎重であるべきだと思う。元記事で私は、男性器の形状が女子のhigh-cut briefのような服装に適合しにくいのではないか、という可能性を考えた。この視点は、現在でも検討に値する。

男性には陰茎・陰嚢という体外に突出した構造があり、走るなどの運動では収容と支持が衣服上の課題になる。Urology Care Foundationの一般向け医学情報は、runningを含むnon-contact sportではathletic supporterまたはcompression shortsがpenisとtesticlesを身体の近くに保持し、運動中の動きを抑える用途を持つと説明している〔18〕。

このことから、男性用競技服には女性用とは異なる前面の収容・支持設計が必要になる、という意味で、身体的性差が服装設計の制約条件の一つになっている可能性は十分に考えられる。

しかし、「男性器があるから男性はbrief型を着られない」とまで言うことはできない。World Aquaticsの競技水着規則は男子水着について上限を臍、下限を膝とする被覆範囲を定めるが、その範囲内で腿を覆うことを要求してはいない〔19〕。競泳では歴史的にも男性のbrief型水着が実際に使用されてきた。したがって、男性器を持つ身体でも小面積のbrief型競技服は技術的に成立する。

それゆえ男性器は、brief型を不可能にする要因というより、「男性用なら支持・収容をどう設計するか」という追加の制約を与える要因と考える方が適切である。

さらに重要なのは、現在のところ、男性器の支持・収容上の必要が、男子陸上でhigh-cut briefではなくhalf tightsやshortsを標準化させたことを直接比較検証した研究を私は確認できていないという点である。したがって、この身体的性差説は生理・衣服設計上もっともらしい仮説ではあるが、陸上ユニフォームの男女差の実証済み原因として扱うべきではない。

この点からすると、身体的性差とジェンダー要因は競合する二つの説明ではない。

身体的性差が、可能な衣服設計に一定の制約を与える。その制約の下でも、男性用brief、shorts、compression shorts、half tightsなど複数の技術的解決策はあり得る。その複数の可能性の中から、どれが「男子陸上選手らしい服」「女子陸上選手らしい服」として市場・競技文化の中で標準化したかには、ジェンダー規範、商品設計、既存の服飾文化が関与し得る。そして一度標準化された後は、現在の選手の個人的な機能的選好を通じても、その標準が再生産され得る。

整理すれば、

  • 身体的性差=衣服設計に対する制約条件
  • ジェンダー・市場・競技文化=複数の可能な設計のうち、どの形を男女それぞれの標準として定着させたかに関わる要因
  • 現在の個人的選好=すでに形成された選択肢・規範の中で行われる選択

という三層に分けると、現在確認できる資料を比較的無理なく統合できるように思う。

8 露出度の高いユニフォームを、女子選手自身はどう経験しているか

この問題については、日本でもかなり直接的な研究が出た。

熊谷紗瑛・矢野琢也・中澤史「学生女子陸上選手のユニフォームと不安感情の関係」(2025年)は、陸上競技を専門とする女子選手25名、平均年齢20.44歳を対象とした研究である〔20〕。

研究では、露出度の高い競技用ユニフォームと、より身体を覆う練習着を比較し、さらに観客がいる条件と関係者のみの条件を組み合わせて検討している。その結果、観客の存在および露出度の高いユニフォームの着用が状態不安を高める可能性、露出度の高いユニフォームが身体的緊張を高める可能性が報告された。

もちろん、25名を対象とした一研究であり、すべての女子陸上選手に一般化することはできない。また、この研究はレーシングブリーフの歴史的起源を明らかにするものでもない。

それでも、この記事にとって重要なのは、「競技服なのだから、選手本人は身体の露出を気にしていないはずだ」と単純に仮定できないことが実証的にも示されている点である。

一方で、前述したように、露出型を機能的に好む女子選手もいる。つまり、同じレーシングブリーフでも、ある選手にとっては「最も競技しやすい服」であり、別の選手にとっては「競技に必要以上の身体的・心理的負担を与える服」であり得る。この多様性を無視して、外部から一律に意味づけすることは避けるべきだろう。

9 性的に見られることと、撮影・放送の問題

元の記事を書いたきっかけの一つは、陸上中継の一部のカメラアングルに性的な意図を感じたことだった。

この問題については、その後スポーツ界自身がかなり明確に対応するようになった。

日本陸上競技連盟は2023年の日本選手権で迷惑撮影対策を実施し、迷惑撮影について、競技会での撮影という一次被害だけでなく、インターネットやSNS上での写真の利用という二次被害も含めて問題化している〔21〕。

2025年東京世界陸上の公式観戦案内では、「アスリート等への性的ハラスメント目的との疑念を生じさせる写真・映像を記録、送信又は作成すること」が禁止事項として明記された。さらに、性的ハラスメントに該当する可能性のある撮影・録画を発見した場合には、内容を確認し、該当する撮影物の削除を求める場合があるとしている〔22〕。

また2025年には、ミズノが赤外線カメラに対する防透け性を高めた裏地を用いる陸上ユニフォームを導入している〔23〕。

そして2026年6月、European Broadcasting UnionとEuropean Athleticsは、女子陸上競技の放送について“Raising the Bar: Guidelines for respectful media coverage in women’s athletics”を公表した〔24〕。これは女性アスリートのsexualizationやobjectificationへの懸念を背景として、競技技術や感情を伝えながら、選手を不必要に性的に見せるcompromising shotsを避けるための具体的な撮影・演出指針である。五輪選手のHolly Bradshaw、Ivana Španović、Blanka Vlašićらの経験も反映されている。

2022年に私が「このカメラアングルには性的な意図があるように感じる」と書いた問題は、少なくとも私一人の特殊な違和感ではなく、その後、競技団体、大会運営、放送事業者が制度的に対応する問題として扱われるようになったことになる。

ただし、ここでは前に書いた議論との区別が必要である。

ある選手の身体を見たときに性的魅力を感じること、性的な反応が自発的に生じることと、その身体の特定部位を強調するように意図的に撮影すること、性的目的で画像を保存・加工・拡散すること、本人に性的な言葉を向けることは同じではない。

前者は少なくとも相当部分が非随意的な内的反応であり得る。後者は具体的な行為であり、選択や社会的規範の対象となる。

したがって、「女子陸上選手の競技服を見て性的魅力を感じる人が存在する」という事実を認めることと、「だから性的な撮影や性的対象化も仕方がない」とすることの間には論理的な飛躍がある。この二つは分けて考えるべきである。

10 この追記自体の方法上の限界

以上の議論は、現時点で確認できる資料を組み合わせた暫定的な歴史・社会学的説明であり、厳密な因果効果の推定ではない。とくに以下の限界がある。

第一に、歴史資料の地域的偏りがある。今回具体的に確認した商品広告や競技文化資料は主として米国・英国のものであり、日本を含む他地域で同じ時期に同じ過程が進んだと当然に仮定することはできない。

第二に、広告・カタログは「何が商品として存在し、どのような言葉で販売されたか」を示す一次資料ではあるが、実際の着用率や選手の選好分布を示す資料ではない。また、広告文言からメーカー内部のデザイン決定の動機を一義的に復元することもできない。

第三に、briefsbikinishortstightsなどの商品語彙は時代・メーカーによって意味が揺れる。1969年のtrack briefsを2026年のhigh-cut racing briefsと同一形状とみなすことはできず、形状史を厳密に論じるには各商品の写真・型紙・実物資料を照合する必要がある。

第四に、New York TimesやRunner’s Worldの選手取材は、競技者の経験や規範の存在を知る上では貴重だが、無作為抽出された代表標本ではない。そこから選手全体の割合や平均的心理を推定することはできない。

第五に、競技性能、身体的性差、ジェンダー規範、メーカー供給、競技文化の各要因を同時に比較し、男女のユニフォーム形状への寄与率を推定した研究は今回確認できなかった。したがって、本稿が提示する多層モデルは、個別資料を最も矛盾なくつなぐ説明仮説であって、統計的に確定した因果モデルではない。

11 現時点での暫定的な結論

以上を踏まえると、この記事の最初の問いに対して、2026年現在なら次のように答えるのが最も資料に忠実ではないかと思う。

女子陸上競技で男子よりレーシングブリーフが多く見られる理由は、競技規則によって女子に義務づけられているからではない。また、「女子には男子より露出の大きい服が科学的に必要である」と説明できるほどの比較研究も、現時点では確認できない。

一方で、個々の女子選手が、可動域、熱感、擦れ、フィット感等の理由からブリーフ型を積極的に選ぶことは現実にあり、女子競技服の短小化には1928年まで遡る機能的動機の史料も存在する。

しかし、男女差そのものの説明となると、競技性能だけでは足りない。

少なくとも1969年には女性専用track briefsが商品として存在し、1974年にはcompetition briefsとbikini briefsが販売されていた。また同じ1974年カタログの女性用シングレットにはfeminine appearancefreedom and comfortが併記されており、女性用陸上衣料の市場言説に機能と女性的外見の双方が存在していた。1979年には同一メーカーの商品群でmen’s shortsとladies’ competition briefsが明確に区分されていた。1980年代のLycra革命では男子も身体密着型になったが、男女の商品カテゴリー差は消えず、1990年代には女子のbrief+crop topと男子のshorts/tightsという異なるシルエットが強く可視化される。2000年代初頭には女子用crop top・track briefsが独立した商品カテゴリーとして確認できる。

さらに現在の選手証言からは、briefが女子陸上において「本格的な競技者らしさ」を表す文化的記号になり得ることが分かる。一度この標準が形成されれば、メーカー、チーム、トップ選手、周囲の選手、本人の競技者アイデンティティを通じて自己再生産する、という仮説には相当の説明力がある。

したがって、元記事の「なぜ男女で違うのか」という問いに限れば、現在の私は、調査前よりもジェンダー化された競技文化・市場形成の説明力を大きく見るようになった。より限定して言えば、競技服一般の軽量化・密着化を説明する上では機能要因が重要である一方、男女で異なるシルエットが定着したことを説明する上では、純粋なperformance要因よりもジェンダー化された商品分類・競技文化を加えた説明の方が、現在確認できる史料との適合性が高いように思われる。

ただし、そのことは身体的要因や機能的要因を否定するものではない。男性器の収容・支持の必要性のような身体的性差は、衣服設計に異なる制約を与え得る。また現在の個々の女子選手がbriefを選ぶ直接の理由は、純粋に「こちらの方が走りやすい」という機能的なものである場合も十分にある。

現時点で最も整合的なのは、

  1. 競技機能上の要求が、軽量化・可動性・身体密着化を促す。
  2. 身体的性差が、男女の衣服設計に異なる制約条件を与える可能性がある。
  3. その制約の下にある複数の可能なデザインの中から、ジェンダー規範、メーカーの商品設計、競技文化が男女それぞれの「標準的な競技服」を歴史的に形成する。
  4. 形成された標準が、支給品、ロールモデル、「競技者らしさ」、本人の小さな機能的選好を通じて経路依存的に再生産される

という多層的な説明である。

このモデルであれば、「女子選手本人がbriefを機能性のために好んでいる」という現在の事実と、「男女差の歴史的形成にはジェンダー化された市場・文化が大きく関与した可能性がある」という説明を矛盾なく両立させることができる。

もっとも、それぞれの要因がどの程度寄与したかを直接測定した研究は乏しい。また、男女の服装差が何年頃からどの程度拡大したかを定量化した研究も、今回の調査では確認できなかった。今後、1968年から2004年頃までの五輪・世界選手権の男女決勝進出者について、競技服をshorts / briefs / half tights / unitard等に分類して時系列で比較することができれば、「経験的に女子の方がbrief型が多い」というこの記事の出発点自体をより客観的に検証できるだろう。

注・参照文献

〔1〕日本陸上競技連盟「ユニフォームのルールの解釈について」2023年4月26日。https://www.jaaf.or.jp/news/article/17826/

〔2〕日本陸上競技連盟『2026年度競技規則』TR5.1「服装」。https://www.jaaf.or.jp/about/rule/

〔3〕Abby Carney, “Why Female Athletes Race in Briefs Has Nothing to Do With Vanity. Here’s What the Kit Actually Does for Performance,” Runner’s World, July 23, 2026. https://www.runnersworld.com/about/a73249212/track-field-broadcasting-guidelines-critics-misconceptions/ なお、同記事は選手証言を知る上では有用だが、ブリーフ型の客観的performance優位を立証する比較実験ではない。

〔4〕Amanda Schweinbenz, “Not Just a Fashion Statement in the Early Olympic Games,” Bridging Three Centuries: Intellectual Crossroads and the Modern Olympic Movement, Fifth International Symposium for Olympic Research, 2000, pp.133–142, esp. p.139. https://digital.la84.org/digital/api/collection/p17103coll10/id/13457/download

〔5〕Isaiah Di Domenico, Samantha M. Hoffmann & Paul K. Collins, “The Role of Sports Clothing in Thermoregulation, Comfort, and Performance During Exercise in the Heat: A Narrative Review,” Sports Medicine – Open, 8, 58 (2022), DOI: 10.1186/s40798-022-00449-4. https://link.springer.com/article/10.1186/s40798-022-00449-4

〔6〕Reuters, “Olympians criticise Nike for skimpy women’s kit,” April 13, 2024. https://www.reuters.com/sports/athletics/olympians-criticise-nike-skimpy-womens-kit-2024-04-13/

〔7〕Umbro advertisements, Athletics Weekly, 19 July 1969, p.7; 26 July 1969, p.9. https://athleticsweekly.com/wp-content/uploads/securepdfs/2025/06/July-19-1969-Vol-23-No-29.pdf ; https://athleticsweekly.com/wp-content/uploads/securepdfs/2025/06/July-26-1969-Vol-23-No-30.pdf

〔8〕NorCal Running Review, September–October 1974, p.18, apparel catalogue, “Women in the sport.” 女性用singletの説明はfeminine appearancefreedom and comfort、女性用track shortsはstandard length competition briefsthe new bikiniLightweight and modest等と記す。https://lynbrooksports.prepcaltrack.com/ATHLETICS/CTRN/ncrr50_1974-Sept-Oct.pdf

〔9〕Viga advertisements, Athletics Weekly, 30 December 1978; 13 January 1979. https://athleticsweekly.com/wp-content/uploads/securepdfs/2025/06/Dec-30-1978-Vol-32-No-52.pdf ; https://athleticsweekly.com/wp-content/uploads/securepdfs/2025/06/Jan-13-1979-Vol-33-No-2.pdf

〔10〕Bettijane Levine, “TIGHTS: There’s Something New in the Running: Running Tights Make Fast Trek to the Top With Fitness Buffs,” Los Angeles Times, January 25, 1985. https://www.latimes.com/archives/la-xpm-1985-01-25-vw-9508-story.html

〔11〕Robin Givhan, “THE TIGHT STUFF: High-Tech Fabrics Let Olympians Go With the Flow,” The Washington Post, August 1, 1996. https://www.washingtonpost.com/archive/lifestyle/1996/08/01/the-tight-stuff/091c41d2-0ad1-4d34-9d15-8b2ba01c33b4/

〔12〕Stephen R. Hagwell, “BARING DOWN: Committee action puts an end to midriff top in women’s track,” The NCAA News, April 1, 1996, p.5(紙面上の掲載頁。PDF第5画像頁)。https://ncaanewsarchive.s3.amazonaws.com/1996/19960401.pdf

〔13〕Athletics Weekly, 23 October 2002, sportswear advertisement. LADIES CROP TOPLADIES TRACK BRIEFSUNISEX LYCRA SHORTS等を掲載。https://athleticsweekly.com/wp-content/uploads/securepdfs/2025/06/Oct-23-2002-No-43.pdf

〔14〕Nell Gallogly, “The Runners Changing Course on Uniform Expectations,” The New York Times, April 8, 2023. https://www.nytimes.com/2023/04/08/sports/olympics/running-uniforms-evolution.html Lauren Fleshman、Susan K. Cahn、Katelyn Hutchinson等への取材を含む。選手証言については代表性のある調査ではなく、質的な報道資料として用いる。

〔15〕Susan K. Cahn, Coming on Strong: Gender and Sexuality in Women’s Sport, 2nd ed., University of Illinois Press, 2015, ch.9 “Women Competing/Gender Contested,” pp.207–245, esp. pp.218–221. 同章は女性スポーツにおける服装、女性的美、modesty、sex appeal、mannishnessへの不安の関係を論じる。JSTOR書誌:https://www.jstor.org/stable/10.5406/j.ctt1ht4vcf

〔16〕Vikki Krane, Precilla Y. L. Choi, Shannon M. Baird, Christine M. Aimar & Kerrie J. Kauer, “Living the Paradox: Female Athletes Negotiate Femininity and Muscularity,” Sex Roles, 50 (2004), pp.315–329.

〔17〕Isabella L. Tremonte, Diane E. Mack, Meghan K. Crouch & Catherine M. Sabiston, “Exploring the ‘female-athlete paradox’: A thematic synthesis of 20+ years of qualitative literature,” Body Image, 57 (2026), 102096, DOI: 10.1016/j.bodyim.2026.102096. 2001–2025年の43研究、764名を統合。

〔18〕Urology Care Foundation, “Ask a Urologist: Athletic Cups and Supporters,” UrologyHealth extra, Spring 2014. Runningを含むnon-contact sportではathletic supporterまたはcompression shortsが男性器を身体の近くに保持する用途を持つと説明する。https://www.urologyhealth.org/Documents/UHe/UrologyHealthextra-Spring-2014.pdf これは一般向け医学情報であり、陸上ユニフォームのcutを比較した研究ではない。

〔19〕World Aquatics, Competition Regulations, Part One, swimwear rules(2026年現行規則への案内:https://www.worldaquatics.com/news/3090417/competition-regulations)。男子pool-swimming用水着は臍より上、膝より下へ延びてはならないとするが、腿を覆うことを義務づけない。男子brief型競技水着が身体構造上不可能ではないことを示す制度上の反例として参照。

〔20〕熊谷紗瑛・矢野琢也・中澤史「学生女子陸上選手のユニフォームと不安感情の関係」『法政大学スポーツ研究センター紀要』43号、2025年、57–64頁、DOI: 10.15002/00031527。https://cir.nii.ac.jp/crid/1390305411858935552

〔21〕日本陸上競技連盟「迷惑撮影対策活動を日本選手権で実施!~アスリートが安心して競技に取組める環境づくりを目指して~」2023年5月26日。https://www.jaaf.or.jp/news/article/18043/

〔22〕World Athletics Championships Tokyo 25「観戦のご案内」。禁止事項として「アスリート等への性的ハラスメント目的との疑念を生じさせる写真・映像を記録、送信又は作成すること」を明記し、該当撮影物の確認・削除要請についても説明する。https://worldathletics.org/jp/competitions/world-athletics-championships/world-athletics-championships-tokyo-2025-7190593/be-prepared-for-your-journey

〔23〕ミズノ株式会社「アスリートを守る赤外線防透け技術を搭載した陸上ユニフォームオーダーシステムに盗撮対策モデルを追加」2025年2月4日。https://corp.mizuno.com/jp/news-release/2025/20250204

〔24〕European Broadcasting Union / European Athletics, Raising the Bar: Guidelines for respectful media coverage in women’s athletics, June 2026. https://www.ebu.ch/news/2026/06/new-ebu-guidelines-tackle-harmful-stereotypes-in-women-s-athletics-coverage

20260903_追記_

以下のような特集があったようだ。「娘にやらせたくない」アスリートのユニフォーム“男女で露出の差”に物議…現役女子陸上選手が本音を激白「言いたいことは分かるが…」科学的根拠を専門家が解説 | 国内 | ABEMA TIMES | アベマタイムズ https://times.abema.tv/articles/-/10270657

20260903_追記_終わり


脚注

  1. 無論、男性とここで限定する意味はない。女性も女性に対して性欲を惹起しえるだろう。 ↩︎

Karin.H

https://blog-rin-life.com/about-me/ 連絡先:hteyw5142@gmail.com

なぜ陸上競技で女性のユニフォームはハイレグなのか」への2件のフィードバック

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