感想『About Time (アバウト・タイム〜愛おしい時間について〜)』
以下ネタバレあり。
8月30日の夜、友人K.O.に勧められて、9月6日、『About Time (アバウト・タイム〜愛おしい時間について〜)』を観た。
友人は、「人生や、幸福について考えさせられた、分かったことがあった」と言っていた。確かに、数年前の私ならば大発見だったかもしれない。いや、当時は理解できなかったかもしれないが。
しかし、私は、鬼束ちひろの『蛍』[1]、ニーチェの永劫回帰、『Arrival (メッセージ)』(2016)[2]を経て、既に類似する時間解釈の世界へ到達していた。
『About Time』を見ている中盤にも、その予感はあったが、父の提示する”教訓2”を聞き、やをらに予感は強くなり、”教訓3”を聞いて、確信し、予感は正しかったと確認した。
しかし、確認したのは、時間的解釈の類似性だけではない。なんと、“難問・欠点”までが類似していることに気がついたのだ(欠点なのかは自分でも今はわからない)。
つまり、無限に広がる瞬間のパラレルの世界(『蛍』:すべてのときが一瞬でこの一瞬が永遠)を生きようとも、永劫回帰の中を生きようとも、それから、タイムトラベルの世界を生きようとも(『メッセージ』、『about time』)、それらの生き方をしているときは、幸福の時間だけでなく、残酷の時間も我々は反復し、永続させるのである。
この難問には、ずっと気がついていた。その意味で、はじめは、『About Time』も同じ”欠点”を共有していると思った。
しかし、映画を見ていると、少し異なる可能性も感じられた。
たしかに、瞬間のパラレルの世界では、残酷の時間(レイプされたり、DVされたり、いじめられたり)も永遠に持続するし、永劫回帰でも繰り返す。以前は、その対処法は、「主体的に意識し、存在を確認する瞬間を選別する」ということだった。つまり、「いい時間のみを選んで“そこに生きる”」わけである。
『about time』でティムの今後は?例えば、自分や子供や妻が難病になったり、レイプされたり、殺されたり、色々な残酷が生じるかもしれない。その時に、ティムは時間をやり直すだろうか。やり直さなければ、ティムはニーチェのいう意味で、「超人」になれたのだ。やり直すのならば、結局、『about time』は、ご都合主義だし、世界はそのようには回っていない。この映画は、「タイムトラベルをしなくなる」ことで我々の世界に符合して、実践できるのだ[3]。
だから、哲学的にこの映画をみるときには、ティムはこの先に、如何なることが生じてもタイムトラベルができない。そうすることによって、はじめて、瞬間のパラレルや永劫回帰に符合する。つまりは、私たちの認識する世界に適用することが可能になる。瞬間のパラレルや永劫回帰は、考え方の転換の問題なのである。タイムトラベルはメタファーでなくてはならない。
さて、残酷の瞬間の話に戻ろう。永遠に持続する残酷の一瞬に我々はどう向き合えば良いのか。
「しかし、映画を見ていると、少し異なる可能性も感じられた。」と述べたのは、その向き合い方に新たな解決法を提示するような感じがしたからだ。1
ただ、ここで少し、筆をおき考えてみたが、
解決法は提示されていないかもしれない。我々はティムのようにやり直しができない。
まあ、しかし、哲学の話は少しおいておいて精神衛生上の戦略の話ならば、少し前に読んだ記事で、やはり、瞬間のパラレルの世界観において、適用可能な戦略が見つかった。
以下の記事である。
Want to Feel Happier? Here’s How to Cultivate Positive Emotions. – The New York Times(https://www.nytimes.com/2024/08/19/well/mind/happiness-emotions-reward-sensitivity.html)
斜め読みしただけだが、要するに、ハッピーな瞬間を反芻していけば、ハッピーになれるのだ。永遠に並行して存在する無数の瞬間のうち、幸福の時間を選別して反芻するのである。今や未来を重視するのでなくて、過去と人が呼ぶ永続する瞬間に目をむけるのである。以下の記事も示唆的かもしれない。
Alain de Botton: how to travel from your sofa (https://www.ft.com/content/c8114022-650e-11ea-abcc-910c5b38d9ed )
哲学の話に戻る。やはり、我々は残酷の時間も保持しなければならない。ティムのようには消せない。
そして、私の世界観においては、今や未来を相対化するのである。そうすることで超人になれる。無論、ハッピーな瞬間の永遠に目をむけることもできるが、そうしないこともできる。というか、何にも目を向けなくても、それぞれの瞬間の存在は誰にも否定できない。やはりそう考えるしかなさそうだ。
過去に閉じこもるのではなくて、瞬間の永続性を意識しながら生きるのだ(私はニーチェのように、回帰・反復のアイデアはとっていない。反復はおそらくしないだろうーーもちろん、長大な時間の単位で反復したりはするかもしれないがーー私のアイデアは、反復してもしていなくてもよく。ただ、その一瞬が永続性をもって存在するというものだ。)。
この時間性の解釈については、これからも検討できそうだ。
(20240907_14時頃追記) ネットサーフィンをしていたら、時間論について書いているブログを見つけたので、記録しておく。
・「瞬間と永遠」 – 対話の哲学 https://dialogue.135.jp/2023/08/20/shunkantoeien/
(20240908_18時頃追記) 『About time』は、抑、絶望を乗り切る話しではなく、より楽しく生きる為の理論であったのだ。そこを見落としていたが、私の従前の理論はいつも絶望への勇気の理論であったのであるから、その点でずれがあった。確かにティムはずっと成功し続けるのだ。そういった人生において必要なのは、自ずと絶望を生き延びる為の理論ではなくより楽しく生きる為の理論となるだろう。
(20241115_1時頃追記) 今思い出したが、私の「一瞬の永遠性」の思考は、立花隆の「見えた 何が 永遠が」という言葉にも通ずる2。それどころか、私が『見えた 何が 永遠が ~立花隆 最後の旅~(NHKオンデマンド)』をprime videoで見たのが2023年3月5日であり、「一瞬の永遠性」の理論を開陳したブログ3を投稿したのが2023年10月5日であるから、私の「一瞬の永遠性」の理論の言語表現に影響している可能性もある。
(20250114_13:45 addendum) <<< I wrote rerated articles below.
*Article「一瞬のパラレルな永遠性(20241216)———ツァラトゥストラと私 | blog rin life」https://blog-rin-life.com/%e4%b8%80%e7%9e%ac%e3%81%ae%e3%83%91%e3%83%a9%e3%83%ac%e3%83%ab%e3%81%aa%e6%b0%b8%e9%81%a0%e6%80%a720241216/ >>>
脚注
[1] https://blog-rin-life.com/%e9%ac%bc%e6%9d%9f%e3%81%a1%e3%81%b2%e3%82%8d%e3%80%8e%e8%9b%8d%e3%80%8f%e3%81%a8%e6%99%82%e9%96%93%e6%80%a7%e3%80%82%e3%81%9d%e3%81%97%e3%81%a6%e4%bd%9c%e5%93%81%e8%a7%a3%e9%87%88%e3%81%b8%e3%80%9c/
[2] https://x.com/ri70402631/status/1812122204458598666 ところで、私は現段階でニーチェも読んでいないし、『メッセージ』もみていない。又聞きで自分なりに解釈しているだけであるので、今後、記述が変わる可能性がある。
[3] いや、そうではないかもしれない。もしかしたら。つまりは、タイムトラベルは生じているものとして、自分に信じ込ませて生きることもできるかもしれない。いや、どうだろう。
- また、この映画でティムが幸福に見えたからだ。というか、この映画は、タイムトラベルの力を得たティムがずっと上手く力を使い続けるのだ。映画にお決まりの失敗の展開はない。その意味では面白いし、論理的だろう。しかし、それが、幸福の笑顔の根拠でなかろうか。実際の人生ではやり直しはできないのだ。その問題について、この映画は応答しているようには思えない。最後の認識論の転換は示唆的に一見見えるが、しかし、浅瀬に止まって都合のいいように見せているだけにも思える。実際に大切な認識論の解釈は、やり直しがきかない、そして残酷さを回避できない我々の人生をどういう認識で生きるかどうかである。 ↩︎
- (20250121_00:40 added) 恥ずかしながら知らなかったが、L’Éternité : Arthur Rimbaud Mai 1872
の一節らしい。20250120に「Pierrot le Fou (気狂いピエロ)」(Jean-Luc Godard)を見た関係で調べて気がついた。 ↩︎ - 鬼束ちひろ『蛍』と時間性。そして作品解釈へ〜〜辻恵『放課後の少女たち』、『PERSON of INTEREST 犯罪予知ユニット』、『ロニートとエスティ 彼女たちの選択』、『Carol (キャロル)』、『Thelma & Louise (テルマ&ルイーズ)』、『The Hours (めぐりあう時間たち)』〜〜 https://blog-rin-life.com/%e9%ac%bc%e6%9d%9f%e3%81%a1%e3%81%b2%e3%82%8d%e3%80%8e%e8%9b%8d%e3%80%8f%e3%81%a8%e6%99%82%e9%96%93%e6%80%a7%e3%80%82%e3%81%9d%e3%81%97%e3%81%a6%e4%bd%9c%e5%93%81%e8%a7%a3%e9%87%88%e3%81%b8%e3%80%9c/ ↩︎
[…] | blog rin life https://blog-rin-life.com/%e6%84%9f%e6%83%b3%e3%80%8eabout-time-%e3%82%a2%e3%83%90%e3%82%a6%e3%83%88%e3%83%bb%e3%82%bf%e3%82%a4%e3%83%a0%e3%80%9c%e6%84%9b%e3%81%8a%e3%81%97%e3%81%84%e6%99%82%e9%96%93%e3%81%ab%e3%81%a4/ )。また、 […]
[…] いて〜)』 | blog rin life (https://blog-rin-life.com/%e6%84%9f%e6%83%b3%e3%80%8eabout-time-%e3%82%a2%e3%83%90%e3%82%a6%e3%83%88%e3%83%bb%e3%82%bf%e3%82%a4%e3%83%a0%e3%80%9c%e6%84%9b%e3%81%8a%e3%81%97%e3%81%84%e6%99%82%e9%96%93%e3%81%ab%e3%81%a4/ ) […]
[…] ernal moments” or “the eternity of a moment” in a blog post using the film About Time as a subject (see review). Additionally, while reading The Real Lotus Sutra (Hashizume & Ueki, Chikuma Shobo, 2015), I encountered the followi […]