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「資嗣」という単語の意味について

「資嗣」という単語の意味について

 『天台真盛宗宗学汎論1を読んでいると、「資嗣」という語が出てきた。以下のような一節である。

皇室・長慶に受法した良祐から三昧流が始まり、良祐の資嗣相実(1165寂)が無動寺に法曼院を開創して、法曼流の祖となつた。(色井秀譲 編『天台真盛宗宗学汎論』,天台真盛宗宗学研究所,1961. (27頁=36コマ) 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/3006995/1/36?keyword=%E8%B3%87%E5%97%A3 (参照 2025-07-29) )

 相実というのは、平安時代後期の僧の名前である2。「資嗣」というのは、号や苗字でもないようである。そうすると、文脈からしても漢字の構成からしても、「資嗣」というのは、「後継者」というような意味なのではないかと想像できる。しかし、辞書を引いてみても、「資嗣」という単語は出てこない。
 そこで、google検索エンジンとgoogle scholar, 国会デジタルコレクションで3、横断的に単語検索をかけて「資嗣」という単語の用例を調べてみた。「資嗣」という語は人名に用いられることがあるらしく、人名に用いられている事例を検索結果から除外するために、その人名の苗字をハイフン(マイナス)で指定除外し、「”資嗣” -榎原 -少貳 -高田」などとして、上記各サービスで検索をかけた。
 そうすると、事例は少ないものの、下記のように、仏教関連が殆どであるが、「後継」乃至「後継者」という意味で「資嗣」という語が使用されていることがわかった。以下、列挙する(赤字は執筆者)。

  1. 「典譽要蓮社文超、號鎭松氏族生里未詳潮龍之資嗣法於靈巖寬永二年住生實大巖寺同九年八月四日寂」4
  2. 「三河國御菩提所寺院の開山も多は當山開山の資嗣なり」5
  3. 「慢鼻高識をくぢき眞正の資嗣として法義を弼くされは」6
  4. 「常に貞譽了也公に學隨し數年の勤從うむ事なかりしかはつゐに資嗣とせられける」7
  5. 「修學解功なりて後錫を縁山に歸向し貞現上人の資嗣となり跡寮を持補す」8
  6. 「高野山別館本山持明院院竹内崇峰上綱の資嗣崇雄師と高野山恵光院近藤説巌上綱の長女恵美嬢との婚儀がととのい」9
  7. 「明光寺電山賢良師)の資嗣亀山賢昭師(高大卒34才·元本山内侍寮、開創法会事務局勤務)会本部勤務)は」10
  8. 「た。なお後任住職には資嗣深真広師が晋山する。」11
  9. 「說攸聞恭惟皇帝陛下稟上聖之資嗣累朝之業績服未久」12
  10. 「後任者が近藤前管長の資嗣であることも何かの因縁と云うものであろうか」13
  11. 「師忌を機会に持明院を資嗣竹内崇峰師(山内宝生寺主)に名実共にゆづり、慈観前官は宝生寺に普住す」14
  12. 「第四條には後嵯峨院の創始にして龜山院の別宮であらせられた、教王常住院をば、大覺寺の塔中に移轉せられて學苑となし、學徒の資としては庄園迄も寄捨せられ、當本山の資嗣は勿論一宗傳持の龍象をも未來永劫に大覺寺で養成する目的であると仰せられて居ます」15
  13. 「管長堀田真快大僧同院資嗣崇雄師(廿四才)(近藤説嚴上(竹内崇峰との婚約(十)遺族ら多数参列し盛儀で」16
  14. 「寺誌稿には/當院ハ舊ト比叡山ニアリ傳教大師延曆年中ノ創立ニシテ鎭護國家ノ靈場天台座主ノ名刹ナリ。儈慈覺、安恵、最円、玄昭等相伝へ、是算法橋ニ至リ、西塔北溪ニ遷リ、東尾坊ト稱ス。村上帝師衣優渥、天暦元年北野神社ヲ草創シ特ニ勅シテ別当ニ任ジ其事ヲ主ラシム。爾來資嗣豪承三十餘、歳ヲ閲スル九百有余、其事ヲ主ラシム。爾来資嗣豪承三十余、歳ヲ閲スル九百有余、明治革新ノ際ニ至ル迄該社百般、直俗ノ事スラ総理セリ。・・・」17
  15. 「師)では、大阪青蓮寺資嗣二上寛弘師と大阪市住吉区桑津主玉島有雅師夫妻の媒酌により同山町五」18

上記の他、国会デジタルコレクション「資嗣 -榎原 -少貳」19などと検索すると、用例が発見できる。なお、「資嗣相伝」20という熟語用法もあったが、用例は一例しか見つけられていない。

脚注

  1. 色井秀譲 編『天台真盛宗宗学汎論』,天台真盛宗宗学研究所,1961. (27頁=36コマ) 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/3006995/1/36?keyword=%E8%B3%87%E5%97%A3 (参照 2025-07-29) ↩︎
  2. 永保元年生まれ。比叡(ひえい)山で天台密教三昧(さんまい)流の祖良祐に師事。真言密教をもまなんで法曼流をはじめる。祈祷にすぐれていた。長寛2年法印。永万元年7月7日死去。85歳。俗姓は藤原。号は法曼院。著作に「相実私記」「息心抄」など。以上、講談社「デジタル版 日本人名大辞典+Plus」より引用(https://kotobank.jp/word/%E7%9B%B8%E5%AE%9F-1085754 )。また、以下も参照のこと。硲慈弘 著 ほか『天台宗史概説』,大蔵出版,1969. (155頁=81コマ)国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/ja/pid/12238861/1/81?keyword=%E8%B3%87%E5%97%A3 (参照 2025-07-29) ↩︎
  3. SAT(大蔵経)では、ヒットしなかった。 ↩︎
  4. (J19_0058A04 『浄土伝灯総系譜』 鸞宿(https://jodoshuzensho.jp/jozensearch/search/detail.php?lineno=J19_0058A04&okikae=%E8%B3%87%E5%97%A3 )) ↩︎
  5. J19_0276A11 画像 『三縁山志』摂門 https://jodoshuzensho.jp/jozensearch/search/detail.php?lineno=J19_0276A11&okikae=%E8%B3%87%E5%97%A3↩︎
  6. J19_0481A11 画像 『三縁山志』摂門 https://jodoshuzensho.jp/jozensearch/search/detail.php?lineno=J19_0481A11&okikae=%E8%B3%87%E5%97%A3↩︎
  7. J19_0507A16 画像『三縁山志』摂門(https://jodoshuzensho.jp/jozensearch/search/detail.php?lineno=J19_0507A16&okikae=%E8%B3%87%E5%97%A3↩︎
  8. J19_0524A08 画像 『三縁山志』摂門(https://jodoshuzensho.jp/jozensearch/search/detail.php?lineno=J19_0524A08&okikae=%E8%B3%87%E5%97%A3↩︎
  9. 『六大新報』(3134),六大新報社,1975-11. (3コマ=5頁) 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/7943528/1/3?keyword=%E8%B3%87%E5%97%A3%E3%80%80-%E6%A6%8E%E5%8E%9F+-%E5%B0%91%E8%B2%B3 (参照 2025-07-29) ↩︎
  10. 『高野山時報』(1627),高野山出版社,1961-12. (6コマ) 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/7894144/1/6?keyword=%E8%B3%87%E5%97%A3%E3%80%80-%E6%A6%8E%E5%8E%9F%20-%E5%B0%91%E8%B2%B3 (参照 2025-07-29) ↩︎
  11. 『高野山時報』(1637),高野山出版社,1962-04. (5コマ)国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/7894153/1/5?keyword=%E8%B3%87%E5%97%A3%E3%80%80-%E6%A6%8E%E5%8E%9F%20-%E5%B0%91%E8%B2%B3 (参照 2025-07-29) ↩︎
  12. 呂祖謙 編『皇朝文鑑』15,[ ],〔昭和3〕.(13頁=15コマ) 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1912315/1/15?page=left&keyword=%E8%B3%87%E5%97%A3%E3%80%80-%E6%A6%8E%E5%8E%9F+-%E5%B0%91%E8%B2%B3 (参照 2025-07-29) ↩︎
  13. 『高野山時報』(1534),高野山出版社,1959-04. (5コマ)国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/7894051/1/5?keyword=%E8%B3%87%E5%97%A3%E3%80%80-%E6%A6%8E%E5%8E%9F%20-%E5%B0%91%E8%B2%B3 (参照 2025-07-29) ↩︎
  14. 『高野山時報』(1511),高野山出版社,1958-07. (6コマ)国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/7894028/1/6?keyword=%E8%B3%87%E5%97%A3%E3%80%80-%E6%A6%8E%E5%8E%9F%20-%E5%B0%91%E8%B2%B3 (参照 2025-07-29) ↩︎
  15. 『六大新報』(1093),六大新報社,1924-12. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/7942020/1/7?keyword=資嗣 (参照 2025-07-29) ↩︎
  16. 『高野山時報』(2091),高野山出版社,1975-11. (8コマ)国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/7894608/1/8?keyword=%E8%B3%87%E5%97%A3%E3%80%80-%E6%A6%8E%E5%8E%9F%20-%E5%B0%91%E8%B2%B3 (参照 2025-07-29) ↩︎
  17. 『史迹と美術』7(13)(73),史迹美術同攷会,1936-12. (1頁=4コマ)国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/6066965/1/4?keyword=%E7%95%B6%E9%99%A2%E3%83%8F%E8%88%8A%E3%83%88%E6%AF%94%E5%8F%A1%E5%B1%B1%E3%83%8B%E3%82%A2%E3%83%AA (参照 2025-07-29)
    『新住宅 : brains & works for urban life』8(75)(8),新住宅社,1953-08. (41頁=13コマ)国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2374329/1/13?keyword=%E8%B3%87%E5%97%A3 (参照 2025-07-29) ↩︎
  18. 『高野山時報』(2090),高野山出版社,1975-10. (7コマ)国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/7894607/1/7?keyword=%E8%B3%87%E5%97%A3%E3%80%80-%E6%A6%8E%E5%8E%9F%20-%E5%B0%91%E8%B2%B3 (参照 2025-07-29) ↩︎
  19. https://dl.ndl.go.jp/search/searchResult?accessRestrictions=internet&accessRestrictions=inlibrary&accessRestrictions=ooc&collection=A00001&collection=A00002&collection=A00022&collection=A00003&collection=A00014&collection=A00015&collection=A00188&collection=A00017&collection=A00016&collection=A00019&collection=A00121&collection=A00024&collection=A00152&collection=A00150&collection=A00173&collection=A00122&collection=A00162&collection=B00000&keyword=%E8%B3%87%E5%97%A3%E3%80%80-%E6%A6%8E%E5%8E%9F+-%E5%B0%91%E8%B2%B3&fullText=true&eraType=AD&availableType=Persend&identifierItem=ISBN&includeVolumeNum=true&pageNum=3&pageSize=20&sortKey=SCORE&displayMode=list  ↩︎
  20. 『大乗禅 = The mahayana zen buddhism』32(2)(362),中央仏教社,1955-02. (26頁=14コマ)国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/7885255/1/14?keyword=資嗣相伝 (参照 2025-07-29) ↩︎

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